京都・笠置のボルダリングエリア中流には一際目を引く綺麗な一本のクラックが走った6~7m程のビッグボルダーがあり、このラインは十年来、笠置のビッグプロジェクトとして言い伝えられてきた。
-出会い-
この岩との出会いは4年前の冬、親しかった友人との岩旅で笠置を訪れた時だった。
トポにはその存在すら記されていない岩なのだが、一目見てその岩の持つ圧倒的な存在感とラインの美しさに魅了されたのを覚えている。
だが、当時はそのラインに可能性を感じることはできず、ただ見上げるばかりであった。
それから4年の月日が経ち、たまたま仕事の都合で関西に転勤になったことを機に、記憶の奥にしまってあったその岩に会いに行くことにした。
また、今回の関西移住をきっかけに岩の様々な情報を得ることができ、エリアが開拓され始めてからのオープンプロジェクトであること、長年数々のトップクライマーたちの完登を阻んできたことなど、まさに未登のプロジェクトと呼ぶにふさわしい歴史的背景があることを知った。
このラインには、その美しさだけでなくそういった歴史的背景も相まって全くの虜になってしまい、冬のシーズンを捧げることにした。
-スタイル-
今回、このラインを登る上でそのクライミングスタイルにはできるだけこだわった。自身が求める最高のクライミングスタイルでこの岩を足下にしたかったためだ。
最高のクライミングスタイル、それは極めて自力で登るということ。いわゆるフリーソロ、オンサイト、ノーマット、ノースポット、グランドアップ……というようなものがそれにあたるだろう。
事実、この岩のてっぺんには過去に打たれた古いハンガーボルトがあり、それらを使ってロープにぶら下がりさえすればホールド、ムーブの確認が可能であった。オブザベーションの段階で、確実に上部核心になるだろうということは予想できていたし、岩のスケールからみてもグランドアップで登るには非常にリスクが高いことはわかりきっていた。しかし、このボルトは決して使ってはならないと感じた。
笠置は先代クライマーによって拓かれたエリアである。
現代に生きる我々は先代を超え、クライミングという文化の発展に貢献しなければならない、そう思ったからだ。
また、ハイボールの醍醐味はグランドアップに在り。
想定されるリスクをコントロールし、未知のホールド・ムーブへの冒険をいかに楽しむかということにある、と自負していたためだ。
結局、今回は自身の実力不足によってノーマットだけは成し得なかったが、マットの使用は下地の露出した岩盤を覆い隠し得るだけの必要最小数に限り、ノースポット、グランドアップ、という理想に近いクライミングスタイルでこのプロジェクトに終止符を打つことができた。
-クライミング=冒険-
クライミングの道具はめざましい進化を遂げ、マットなどのリスク回避手段の出現によって岩を登る上では様々な可能性が拓けた面もある。
しかし、それらはクライミングが元来持ち合わせている冒険的要素を霞ませ、白けたものにしてしまう危険性を孕んでいる。
今一度、クライミングとは、クライミング能力とは何かということを見つめ直し、今後、初登を超えるかたちでの再登が成されることを切に願い、このラインをReBirthと命名した。
このラインをともに見上げ、可能性を語り合った亡き友にこの完登を捧げたい。
#『ROCK&SNOW』059号 掲載
writer/Keita Kurakami