モアイフェース開拓記

前記事:「瑞牆山とクライマー」


長きにわたりクライマーに登られ続けてきた瑞牆の中にあってもなお、未登のプロジェクトとして残された大岩壁が十一面岩正面に鎮座する「モアイフェース」
「モアイフェース開拓記」は、2015年に行われたモアイフェースでの開拓を綴った記録。


-出会い-
初めて瑞牆の岩頭に立った時、真っ先に目の中に飛び込んできた岩壁がそれだった。
個々の岩峰の存在感もさることながら、山の正面に堂々と構えるその岩壁は異様な存在感を放っていた。-
とんでもない未登の岩壁が残されていることへの驚きと期待に、どこか胸の高鳴りを感じた。

7/19
モアイフェースを目の当たりにして以来、その未登の岩壁への想いは日々膨らみ、岩場、エリアの歴史、開拓スタイルなど情報を集め続けた。
が、結局わかったのは、この岩壁は長きにわたりクライマーに登られ続けてきた瑞牆の中にあって、なお未登のビッグプロジェクトとして残された存在であり、その地ではラペルボルトは容認され難いということだけだった。
しかし結局は岩壁を見てみないことには何も始まらないとふん切りをつけ単身モアイフェースへ。
この日は昼に駐車場に着いたので翌日の登攀のためのギアをデポしにツバメのハングへ。
ロープ2本にカム、ナッツなどギアフルセットを担いで歩く慣れないアプローチに「これから毎週このアプローチをいくのだろうか…」と少し億劫になった。

7/20 モアイフェース1日目
単独。まずはグランドアップスタイルで攻めることにし、既存ルートをロープソロしてモアイ下の通称、宴会テラスへ行った。
ロープソロで登るのは初めてであったがこの岩壁と対峙するタイミングを先延ばしにしたく無かった。
たった2ピッチだったが慣れないソロシステムでのクライミングは予想以上に大変で、何とか15時過ぎにモアイフェース下のテラスへ。
取り付きから見るモアイフェースは、綺麗なスカイラインを纏ってはいたがそのスカイラインが頂点ではないことは明らかであった。
ここに来るまで幾度も岩壁の写真を見てラインを思い描いていたが実物は想像を遥か上回るほどに巨大だった。
しかし、登れるのかという不安よりも未到の岩壁を目の前にして、その岩壁と対峙できていることに言い表し難い感動を覚え、暫くその場に立ち尽くしてしまった。
空は青く、風が木々を揺らしていた。
今思うとその時間はなんともいえない不思議な時間だった。
岩との対話、そんな言葉がしっくりくるのかもしれない。
夕暮れ間近だったが衝動は抑え切れず目の前に見えるクラックに取り付く。
この日はモアイフェース解明への第一歩を踏み出せたことがただただ嬉しかった。


7/25 モアイフェース 2日目
モアイフェースには壁の中央部にある大フレークまで登りベルジュエールに合流する南回帰線という過去のエイドルートがあるらしい。
と、早速その情報を教えて頂いた会社の先輩と登りにいった。
とりあえず今回は過去に打たれた錆びたボルトラダーを使ってエイドで登りながら壁の様子を見てみたがプロテクションもろくに取れないし、南回帰線との同ラインのフリー化はちょっと厳しそうなことがわかった。

・・・・・・・・・・
今週は多くの先輩クライマーから瑞牆の歴史、開拓の思想、時代の流れの話を聞くことができ、モアイフェースを開拓するにあたっての自分なりの考えやスタイルの方向性を考え直す良い機会になった。
理想はグランドアップ、ボルトレス、レッジ ・トゥ・レッジスタイルでの開拓であったが中間部〜岩頭までは遠目の写真から見ても明らかなようにクラックは見当たらず、最悪ノープロテクションで何十メートルも登らなければならない可能性もあった。
グランドアップを貫き、ジャンピングという選択肢もあったがこの岩壁にボルトを打つことへの抵抗の方が遥かに大きいし、自分がやりたいのはそんなクライミングじゃない。
これだけ目立つロケーションにある岩壁が何十年もの間ボルトを打たれることなく在り続けたことにどうしても考えが巡ってしまうのだ。
色々と葛藤はあったがこの岩壁とはプロテクションクリーンのトラッドスタイル、かつレッジ ・トゥ・レッジで攻めたい。
ラインの全容が見えていないのでラペルでの掃除とビレイ点の設置は妥協するとしても、もしライン上にボルトを打たなければ登れない判断になったとしたら…
自身は一旦手を引き、モアイフェースは未来のクライマーへ託すかもっと精神的にも肉体的にも強くなって戻ってこよう。
そう心に決めた。
・・・・・・・・・・

8/1 モアイフェース 3日目
単独。十一面岩頭からの下降路を経由し、頂上から懸垂下降でモアイの頂上へ。
ひとまず立木にスリングで支点を設置。
モアイの頭でしばし躊躇した後、ひと思いにロープを放り投げる。
クライミングを始めて以来、どんなハイボルダーでもルートでもグランドアップを貫いてきた。
今日の出来事は自身にとってはあまりに大きすぎる己の弱さの享受と、妥協であった。
長いこと感慨にふけながら、とはいってもこの日は夕立が来るとのことなので昼過ぎあたりに懸垂下降を開始した。
まずはプロテクションが取れそうな箇所を探る。
今回探ったのは上部。約40mのピッチの中でプロテクションが取れそうなのは5箇所のみ。
クラックは無くポケットにカムを効かせる、かなりプアプロテクションな感じだった。
夕方は予報通り夕立にあう。
モアイの頭から懸垂して白くまのコル下のアレアレア取り付きから帰ろうと思ったが、予想以上の雷雨にアレアレア取り付きから白くまのコルまでの数メートルのアプローチは滝となってしまっていた。
雹も混じってきて、微妙なスラブのフリーソロには相当参った。


8/2 モアイフェース 4日目
4:30起床。6時発。単独。
今日は時間短縮のため白くまのコルからベルジュエールをフリーソロしてモアイの岩頭へ。
大フレークピッチは程よいアップになるがワイドクラックはとても恐ろしかった。
今日は主に中間部の掃除とライン探り。
クラックの開拓経験が皆無だったので効率的な道具が無く、ナッツキーでクラックを穿って掃除。
クラック掃除だけで半日以上ぶら下がっていたと思う。この日も夕暮れまで作業。
途中、脱水症状になりかけ前腕、上腕、足裏と色々と攣ってしまい岩頭までの登り返しがとてもしんどかった。

8/15 モアイフェース 5日目
単独。前回探ったラインとは別のフェース中央を行くラインを探る。
一通りプロテクションの可能性を探ってみたがかろうじてマスターカムの#1とX4#0.5サイズが決められそうなのだがランナウトは免れないだろう。
スラブから前傾と急に傾斜が変わるので下部で落ちたり、上部でもプロテクションが抜けてしまうとスラブ面に叩きつけられてしまいそうだ。
まずは下から1ムーブづつ探り、水晶が連なるトラバースセクション手前まで解決。しかし核心はこの後に続くトラバースになりそうだった。
日が暮れはじめるまで探り続け、21時頃下山。

8/16 モアイフェース 6日目
4時起床、5時半発。単独。
未解決のトラバース部を探る。
が、やはり難しい。トラバース部分だけでも三段(V10)くらいありそうな感じだ。
そんなことを思っていたら水晶トラバース合流部のキーホールドであった掛かりの良いカチが欠けてしまいさらに絶望感漂う感じになってしまった。
なぜか花崗岩では茶色の岩面は表面が風化しているのか脆い箇所が多い。
欠けた付近を日暮れまで探るが解決できず。あれやこれやとムーブを妄想しながら21時頃下山。


8/22 モアイフェース 7日目
前回の絶望感が拭いきれず他のラインを探るがどうも微妙。やはりこのラインで登りたい。
欠けてしまった部分も無理くりのボルダームーブでなんとか解決。
再び水晶トラバースのムーブ探りに戻る。

8/23 モアイフェース 8日目
4時起床、6時発。単独。
朝からしつこく水晶トラバースを探り、最もランナウトする水晶トラバース終端のフレーク合流部と絶望感漂う2mランジを残してほぼムーブ解決。
その後はモアイフェース2ピッチ目(千日の瑠璃3P目)以降の上部も少し探ってみたが、さらなるランナウト&ハードムーブ。
これを登るには強烈なランナウトに耐えうる精神力とさらなる登攀能力が必要そうだ。

8/29 モアイフェース 9日目
予報は雨だが瑞牆へ。単独。
現地は予報通りの雨。とりあえず十一面岩へ向かうが真っ黒なモアイフェースを見てがっかり。
下部は雨でも登れるパートだと思っていたがそんなことは無かった。

9/5 モアイフェース 10日目
5時発。単独。
秋雨前線真っ只中の貴重な晴れ間。日々、夜明けが遅くなっていく。
葉も薄っすら色付き始め、通い慣れたアプローチもいつもより明るい。
心地よい焦りと期待とともに、シーズンが始まろうとしている。
この日も集中的にモアイフェース1ピッチ目(千日の瑠璃2P目)。
しつこくムーブを探り、ついに水晶トラバース終端部と2mランジを解決することができた。
5.10マイナスのクラック+3段(V10)+2mランジといったところか。
フェースにボルト無しオールナチュラルプロテクションで、Rは間違いなく付きそうだ。
明日に備え、珍しく夕暮れ前に下降。

「千日の瑠璃」へつづく。

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